2025年のB to B SaaS業界の展望を予想してみる


新年あけましておめでとうございます。
信田(しのだ)です。

2024年は、B to B SaaSに向き合う1年でしたが、年末年始に時間があったので、改めて今後の日本における、B to B SaaS業界について考えてみました。

以前に、SaaSの時代はもう終わってしまったのか?

という記事を書きましたが、今回は、2024年を通して感じたことを元に、2025年のB to B SaaS業界の展望を個人的な希望も込めて予想してみたいと思います。

2024年を通して感じたこととしては、これからまたSaaSの波が来るぞということでした。いやむしろ、これからくる波が本物の波なのではないか?とさえ感じています。

まず、数字だけで見るとポジティブな数字はたくさん出てきます。

  1. 国内SaaS市場は年平均成長率11.7%
    (参考:スマートキャンプ『SaaS業界レポート 2023』を解説)
  2. 国内SaaS市場は現在から3.7倍以上になる可能性がある
    (参考:One Capital「Japan SaaS Insights 2023」)
  3. 日本のエンタープライズ市場は28.5兆円で前年比4.7%成長
    (参考:ガートナ「日本のエンタープライズIT支出、2023年は4.7%増」)
  4. クラウド市場の成長率20%前後
    (参考:Synergy Research Groupグローバルのクラウドインフラ市場シェア」)

これらを見るに、数字だけで見ると、SaaSの市場はまだまだこれから伸びるし、エンタープライズ市場の中でSaaSの割合が高まっていくであろうことを考えるとポテンシャルは非常に高く感じる。

さあ、では、なぜ、数字上は、どの数字を見ても伸びてそうに見えるのに、そしてアメリカではしっかり伸びているのに、国内において体感値として伸びていると感じづらいのか?

いくつかの要因があるのではないかと思う。

  1. 新興SaaS企業を支えてきたベンチャーキャピタルの機運の低下
  2. クラウドなど最新テクノロジーの活用の遅れ
  3. 日本特有のSIビジネス/カスタマイズ文化

ただ、これらの要因については、少しずつ変化が見えてきているのではないかと感じていて、これらが変化していくことによって、一気に、B to B SaaSの波が進むのではないかと感じている。

  1. 新興SaaS企業を支えてきたベンチャーキャピタルの機運の低下

    <起きている変化>
    こちらについては、確かに、過去SaaS企業の時価総額に軒並み高値がついていた時期とは様子が変わり、ベンチャーキャピタルの投資も慎重になってきている。また、AIという新しい領域への投資が盛り上がり、SaaS投資への機運が下がっている側面はあるものの、これまでと指標を変えながらではあるが、SaaS企業への投資は引き続き継続されている。
    また、大きな変化として、新しいタイプのプレイヤー、またベンチャー投資ではない資本を活用したSaaSがこれから生まれ始めるのではないかという機運を感じる。例えば、SIerは事業モデルの転換としてSaaSに向き合うことを意思決定している企業は多いと感じる。また、日本の各産業を代表とするエンタープライズ企業が新規事業として、自分たちの蓄積してきた業務ナレッジをSaaSとして新規事業展開していく事例も増えてくるのではないかと考える。
    つまり、これまでより、SaaSビジネスを立ち上げるプレイヤーの種類が増加していくことで、ここの課題は解決されていくのではないかと予想している。
  2. クラウドなど最新テクノロジーの活用の遅れ

    <起きている変化>
    SaaSビジネスがなぜ注目されたのか?の背景には、新しいテクノロジーを活用することによって、スケーラブルなソフトウェアビジネスのモデルが構築できるようになったこと。また、そのテクノロジーの活用によって、SaaSの顧客側に、「割り勘効果」をもたらすことができて、業務ソフトウェアの活用の民主化が圧倒的に進むポテンシャルがあるからではないかと考えている。
    しかし、これまでは、日本においては、SaaSのストック型のビジネスモデルやSaaSの主要KPIなどに注目が集まり、最新テクノロジーをフックにした爆発的な業務ソフトウェアの民主化を起こしきれなかったのではないかと考えている。
    しかし、2024年になって、クラウド領域におけるグローバルTOPのAWSが本格的に動き始めるのではないかという機運を感じる。

    ・AWS Japan がソフトウェア企業に提供する「AWS SaaS 支援プログラム」の提供を開始
    https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/saasification/
    ・国内初のSaaS技術専門書の発売
    https://www.oreilly.co.jp/books/9784814401017/

    また、APIファーストの機運も高まっており、我々アンチパターン社も、SaaS開発運用を支援する「SaaSus Platform」を提供している。

    これらを背景に、2025年には、SaaS提供の技術的視点の注目度も上がり、盛り上がりを見せていくのではないかと予想している。
  3. 日本特有のSIビジネス/カスタマイズ文化

    <起きている変化>
    国内のSIビジネスは足元堅調ではあるものの、エンジニア不足の問題を抱え、人月ビジネスの限界も見え始めているのではないかと感じる。また、事業会社もDXを求められており、これまで社内の業務システムにかけてきた、潤沢なIT予算を、新しい価値の提供など攻めの領域へのIT投資への転換が求められるようになっている。そんな時代背景を考えると、これまでのように潤沢なIT予算を活用して、1 社1社カスタマイズで自社の業務システムを作っていくことが現実的に難しくなってくることも予想される。
    そんな事業会社の変化により、SIerも汎用化してサービス提供するべき領域を見極め、ストックビジネスを一定割合作っていき、逆に、攻めのIT投資要望に関しては、これまで通り、SIによる人月モデルで独自性の高いシステムづくりの支援をしていくなど、領域分けが進めていくべきではないかと考える。その結果、これまで進められなかったSaaS事業が進み始めるのではないかと予想している。


では、具体的に、どんな領域で、SaaSが立ち上がっていくのかを予想してみる。

現在の時代背景をとらえた新領域のサービス化


マイナンバー対応、CO2の排出量測定、人的資本開示、インボイス制度対応、社会的背景の変化によってこれまでなかった業務が新しく必要となってくる際に、サービス化していくことは、業務規模が大きくなりにくい、かつ他の業務システムとの連携の必要性が少ない場合も多く、SaaSとして導入するハードルが低くなりやすい。その結果、これまでも、この領域でのサービス化は多く例が見られるが今後も、この領域ではSaaSが生まれていく可能性が高い領域ではないかと想定できる。

現場DXのサービス化

これまでは、B to B領域においては、いわゆるデスクワーカー向けのSaaSが多かったが、モバイル端末の普及やIoT技術の発展などを背景に、現場業務「店舗業務」、「配送業務」、「工事業務」、「製造業務」、「倉庫業務」などDXが進むではないかと予想できる。また、これまでであれば、これらを社内システムとしてDXを進めるという文脈になりがちだったが、新たな収益基盤の確立やクラウドテクノロジーの発展などを考えると、1社向けではなく、複数事業者にサービス提供をするということが現実的に視野に入ってくるのではないかと考える。この領域では、これまで主流ではなかった、B to B領域における、モバイルアプリでのSaaSが増えてくるのではないかと予想している。

自治体システムのサービス化

現在は、1,724ある自治体は、それぞれに自分たちの自治体に必要なシステムを、地場のソフトウェア事業者に依頼して作ることが多いようだ。しかしながら、少子化、人口減少を背景に、「消滅可能性自治体」などのキーワードが出てくるなど、自治体としても、人口規模に合わせた予算の縮小などは必須となってくる。もちろん、物理的な建物や施設の縮小などに目が向きがちだが、ソフトウェア予算の縮小も対象となってくるはずだ。そう考えると、これまでのように、同じような仕組みを各自治体のソフトウェア会社がそれぞれで作るのは現実的ではないし、非効率である。このような背景から、自治体においてもSaaSの機運は高まってくるのではないかと考える。

企業のコア業務を担うシステムのサービス化

これまでも、エンタープライズ企業における、SaaSの活用は進んできたように思うが、使われている領域を考えると、1事業部の1サブシステムにおいてSaaSを活用する事例や、全社業務だとしても、人事領域など、他業務と切り離しやすい領域でのSaaS活用が進んできたように思う。しかしながら、今後も、さまざまな業務のシステムリプレイスのタイミングが定期的にくる中で、これからも繰り返しリプレイスを繰り返していくのかというのには疑問が残るところだ。

他の領域に比べるとハードルは高いが、この領域においても、SaaSを提供するプレイヤーが出てくるのではないかと考える。

また、コア業務におけるハードルの高さは、カスタマイズの多さや連携が必要なシステムの多さではないかと思う。ただ、SaaS提供事業者がSaaSに外部公開APIを備えることによって、ある程度、SaaS利用企業側での柔軟性を上げることができるのではないかと考えている。利用企業側が、外部公開APIが存在するSaaSを活用しながら、自社独自で必要な要件については、SaaSのAPIを活用し、これまで通り社内システムとして持つことである程度解決できるのではないかと考えている。

これらにより、この領域でも、SaaSが出てくることを個人的にはとても期待している。

さて、今回のまとめとしては、エンタープライズIT市場は28.5兆円規模であり、これからもまだ成長することが予想される中、SaaS市場は、1.1兆円程度である。たったの4%である。ここに関しては、まだまだ伸びるべきであり、その鍵は、SaaSビジネスを推進するプレイヤーがどのように現れて、最新テクノロジーを活用して、多くの企業にメリットのあるようなビジネスを立ち上げられるかどうかにかかっている。

我々も、今後出てくる、「SaaSビジネスを推進するプレイヤー」をしっかりと支えていけるような事業者であるために、しっかりと頑張っていきたいと考えている。よし、2025年も頑張ろう。